撮影2日目。吹雪いたかと思うと、薄日がさし、また粉雪が舞う。変わりやすい冬空の下で、男が列車に乗り込むシーンの撮影。車内は監督と地曵さん、撮影部2名だけの、ゲリラ撮影。線路の向こうには、強風にうねる日本海が深緑色の波しぶきあげている。監督、キャメラの辻さんに、実景撮りの指示も出す。恐らく、監督の頭の中には、近くクランクイン予定の「三島」があるのだ。
その後、バスで北上し、海の家で、男が出所後初めて食事をとるシーンの撮影。到着してわずか数分で準備が整い、あっという間にキャメラが回り始めた。
閑散とした冬の海。どんよりとした灰色の空を見つめながら、湯気の立つお椀をすすり、ご飯を頬張る男。しばらくすると勢いよい咀嚼が止まる。久しぶりのボリュームある食事に、刑務所の食事に馴染んだ胃が過剰反応を起こす…。
その瞬間、監督の怒号が響いた。そんな時、どう感じるんだ、もっと戸惑うだろう、もっとうろたえるだろう、もっと、もっと!!
監督のイメージが、ぐいぐいと役者を追い詰め、表情がますます研ぎ澄まされていく。
あっという間に3カット終了。
昼食を挟んで、男が嘔吐するシーンと海岸を歩くシーンの撮影で、今回の予定は全て終了した。
監督は、あまりこまごまとしたディテールにこだわらない。ただ、そこの芯にあるもの、その瞬間の人間の生の迸りのようなもの、その一点に集中して、そこだけは妥協しない。理屈ではなく、嗅覚のようなものだ。
男の目が見据える先に、その視線の先に、監督はどんな世界を紡ぎ出すのか、これからのロケに静かな興奮を覚えるクランクイン2日目となった。