「プリントのつなぎ間違いじゃないですから・・
怒らないで最後まで観てください」
若松監督の謙虚で不思議な舞台挨拶に場内から笑いが漏れた。
空気を静かに震わすジム・オルークの独特な音楽で
幕を開けた「海燕ホテル・ブルー」の先行上映会。
2月9日(木)、平日の夜だというのに
テアトル新宿は「海燕ホテル・ブルー」を一足先に観ようという
お客様の静かな熱気に包まれていた。
ジムのライブ終了後、監督及びキャストによる舞台挨拶が行われた。
壇上に並んだのは、若松組初参加となった女優・片山瞳と
連合赤軍からの常連陣・地曵豪、井浦新、大西信満。
そして観客として観に来ていたキャストの一人、ウダタカキも急遽壇上へ。
各自、来場してくださったお客様に感謝の気持ちを表しつつも、
上映前ということもあり、詳細を語れないというもどかしさを抱えての
降壇となったようだ。
そのため、作品を観終わったお客様ともう一度向き合いたい!という声が出て
予定外ではあったが、急遽上映後にティーチインを行うことに。
上映終了が23時過ぎていたため、終電の関係で何人かのお客様は劇場を後にしたが
予想を超えて大方のお客様がティーチインにも残ってくださった。
今度は壇上ではなく、舞台の下、お客様の目の前に
再び並んだ監督とキャストたち。
場内の皆さまに「何かご質問がありましたら」と呼びかけたが
なかなか挙手がない。
一体、この作品を自分の中でどう消化すれば・・・?というような困惑顔と
そして、若松監督が遊び尽くした作品を、ともに遊んだ後のような笑い顔。
「いや〜、ヘンなの撮っちゃった!」
クランクアップ後に、ニコニコ笑いながら監督が口にした通りである。
「月並みですが、撮影中に苦労された点は?」とのお客様からの質問に
待ってましたとばかり、各俳優陣がそれぞれの苦労話を披露。
クランクインした当初、まだ台本すら存在していなかったこと。
日々、あらゆる事が変化していたこと。
「脱ぐ」なんて台本には一言も書かれていなかった自分が、
いきなり全裸で走れと言われたこと。
原作をしっかり読んでいたら、自分の役は原作のどこにもない謎の警官だったこと。
あらゆる常識を飛び越えていくのが映画づくりではあるが
ここまで何もかも飛び越えてもいいものだろうか・・・と思ったこと。
そう語るキャストたちの楽しそうなこと。
そうだ、この作品は、みんなで必死になって遊んだ作品だ。
遊び半分に作った映画ではない。
必死に遊んだ映画なのだ。
「映画なんて所詮オモチャ」というのが若松監督の口癖だ。
理屈なんかすっ飛ばして、自分の五感をフル回転させて
いろんな妄想を膨らませて、その手触りを実際の映像に表現していく。
ただ、それだけのこと。
だからこそ、みんな四苦八苦して、監督の妄想にくっついていく。
監督の頭の中の手触りを知ろうと奔走する。
そうして出来上がった作品だ。
そうしなければ作れなかった作品だ。
そして、そんな風にキャストやスタッフを巻き込んで
音楽のジム・オルーク氏や原作者の船戸氏をも巻き込んで、
この作品は完成したのだ。
映画とは、なんと贅沢で最高のオモチャだろう、と思う。
ティーチイン終了後、劇場のロビーは
公式ブックをお求めくださるお客様であっという間に長蛇の列が。
作品の手触りを、もう一度本で味わってみようか、と思ってくださった方、
この公式ブック限定のジム・オルークのサントラCDがお目当ての方、
不思議な作品の目撃者となった記念に買ってくださった方。
それぞれの皆さまに、心からの感謝を・・・。
そして劇場にお越し下さった皆さま、本当にありがとうございました。
今回を逃した方、ぜひ、3月24日から、テアトル新宿、横浜ジャック&ベティ
その他、全国各地の上映劇場に足をお運びくださいませ!