今朝、TGV列車に乗って、パリへ戻ってきた。
車中で、「ブラボー!」と声をかけられるなど
暖かい声に見送られて、カンヌと別れを告げた。
カンヌ国際映画祭という大舞台に41年振りに戻って来て
再び、物議を醸す作品を世界に向けて発信した若松監督。
前日の夕方まで、海外プレス、フランス国内プレス
日本のプレスと、精力的に取材を受け続けた。
その前夜の公式上映の疲れを見せずに
繰り返される質問に1つ1つ答え続けた一日だった。
あるメディアのインタビューの時、
レッドカーペットについて聞かれた監督は、こう答えた。
「見せ物になった気分ですよ。
被写体は、僕じゃないんです。作品ですよ。
作品を観て欲しい。
僕がカーペットを歩く姿なんか見せたってしょうがないでしょ」
実際に、レッドカーペットでの若松監督は、
左右のフラッシュにも、周囲の煌びやかな人々にも一瞥もくれず
ひたすら、真っ直ぐに前を見て、一歩一歩階段を上がっていった。
最上段でも、一度も振り向くことなく、会場内に消えていった。
媚びない。
浮つかない。
惑わされない。
「俺は、ただの映画屋です。
趣味も何もない、映画作るしかできない人間ですから。
これまでも、そしてこれからも、自分の作りたいものを作っていくんです」
黙って進んでいく若松監督の背中が、そう語っているように見えた。
パリへ戻ってきた監督の頭の中は、
今週末に公開される劇場の事でいっぱいになっている。
「これからが、勝負だ」
50年以上、映画を撮り続けてきた若松孝二。
100本以上の作品を生み出す度、観客たちに真剣勝負を挑んできた。
そして今、カンヌの大舞台で、その勝負のカードは世界に向かって切られた。
井浦新の演じる、新しい三島像に、劇場内がどよめいた。
日本の映画史に新たなモメントを刻んだ。
6月2日の全国公開で、多くの人が監督の勝負に応えてくださることを祈りつつ
フランスからのリポートを終えたい。
フランスでお世話になった皆さま、ありがとうございました。
特に、素晴らしい通訳と、暖かいフォローで若松組一同を支えて下さった
高橋晶子さん、ありがとうございました。