1月6日。三重の空は晴れ渡っていた。
津市内の三重県総合文化センター多目的ホール前には
9時30分の開場の1時間以上前から、列になったお客様の姿があった。
若い女性たち、杖をついたご高齢の方、老若男女が入り交じった列だった。
監督はいない。
しかし、スクリーンの中にいる。
これから、監督の最後の新作が、産声をあげて歩き出す。
ぐるぐるとまわっていく思いとは別に
1日3回上映という慌ただしい一日が始まった。
開場のアナウンスとともにお客様が場内へ。
奄美三線の音楽が流れる場内の席がお客様で埋め尽くされた。
緊張とともに嬉しさがこみ上げる。
そして間もなく、佐野史郎、高良健吾
高岡蒼佑、井浦新が東京から到着した。
到着するやいなや、
控え室にて用意された1000冊の公式ブックへのサイン開始。
うずたかく積まれた本に向かって黙々とサインペンを動かすキャストたち。
その頃、劇場内では、監督の作品が、
スクリーンから、みている一人一人のもとへ飛び立っていた。
上映3回。トークも3回。
その合間にマスコミの取材とサイン書き。
昼食を落ち着いて食べるヒマもない慌ただしさだが
ステージに立つと、お客様にいかに作品の余韻の中で
この一時を楽しんでもらうかに心を砕くキャストたち。
監督の演出のギリギリの部分。
大谷派の読経を必死で憶えた苦労。
急遽前倒しで始まった半蔵のシーン。
演じる役と自分自身との距離感。
時折炸裂する監督の理不尽さと
それをも飲み込んで前進していく若松組の熱。
演技するなと怒り、キャメラを考えろと怒る監督の
奥底にある優しさ。
会場からの質問にも応えつつ、時に深く、時に笑いを交えながら
いくつものエピソードが披露された。
監督の不在をフォローすべく、キャストたちが
心を込めて壇上に立っている、その心意気を感じる。
先行上映の一日目。
監督が気が気でなかったであろう、その日は、
慌ただしく終わった。
3回目のトークを終えたキャストたち、慌ただしく乾杯してから津駅へ。
夜もとっぷりと暮れた駅の改札で、キャストの皆さんを見送る。
監督がいた時、いつもいつも急かされて、いつもいつも慌ただしかった。
今回、監督がいなかったはずなのに、なぜか終始気持ちが急かされて
終始慌ただしかった。
ホームへと向かう同志たちの背中を眺めていたら、
監督が横で、満足そうに仁王立ちしている気がした。
「監督、始まりましたね」
その後、井浦新から写真が送られてきた。
「先行上映の様子が気になって、
見に来てましたよ、やっぱり」
津へと向かう新幹線の車窓にて。
大きな龍が、澄んだ空を駆け上っていたという。
14日は、シネリーブル神戸、京都シネマ、テアトル梅田、第七藝術劇場にて。
17日は、テアトル新宿にて。
先行上映が続く。