若松監督一周忌の日がきた。
ちょうど一年前に監督が逝去。
一年かけて、遺作「千年の愉楽」を全国で上映してきた。
監督が自ら作品を語る事はかなわなかったけれども
それぞれの上映の地で、作品は、見てくださった一人一人の方のものとなった。
本日も、引き続き、下高井戸シネマにて追悼特集が、
そしてポレポレ東中野ではレイトでのイベントが行われる。
下高井戸シネマでは「千年の愉楽」に引き続いて
「メイキング」60分バージョンの上映、
ジム・オルークさん、渚ようこさん、中村瑞希さんのライブ、
井浦新さん、大西信満さん、満島真之介さん、辻智彦さんのトーク。
ポレポレ東中野では21時10分〜
若松監督デビュー作「甘い罠」上映、
ジム・オルークさん、渚ようこさん、中村瑞希さんのライブ、
井浦新さん、大西信満さん、満島真之介さん、辻智彦さんのトーク。
若松監督が遺した一つ一つを辿って、一周忌という日を過ごす。
そして、昨夜も、下高井戸シネマにて、新たなトークの時間が刻まれた。
「海燕ホテル・ブルー」上映後のトークに、ヒロイン片山瞳さんと
「千年の愉楽」後家の初枝役の安部智凛さんが登壇した。
「これまでのトークでは常に、
大西さんや地曵さん、男たちに頼っていたと痛感してます…」と
安部さんが浮遊トークをスタートさせた。
片山さんが、安部さんが若松組初参加となった
「実録・連合赤軍」当時のエピソードを引き出そうと試みるも、
キャッチボールが時に横に飛ばされたり、静かに通過したりしながら
それでも2人の真摯さが会場内に伝わる、暖かなトーク。
「11.25自決の日」では、男役しかないところを
懸命に手紙を書いて、人形焼きに貼付けてポストに入れたら
全共闘の学生役を女性にして配役してもらえたエピソード。
安部さんも受けた「海燕」でのオーディションが
安部さんの時と片山さんの時では、微妙に状況が異なっていた事。
2人が訥々と語る若松組のエピソードの合間には、
15分ほどのメイキング上映も挟まれ、若松組の空気が会場内ににじんでくる。
場内からは「千年での後家の濡れ場が割とあっさり描かれたが、その理由は?」
との問いも。
「半蔵の目がとても奇麗なんだ、奇麗な若者なんだ。
その半蔵にあまり汚らしい事をさせたくないんだよ」と、
本番の5分前に台本が大幅に変わった事などを安部さんが明かした。
若松監督からの言葉で自分の中で大切にしているものは、との問いに
片山さんが「”お前ならどうする”という問いかけ。
監督を喪ってから、それぞれがずっと、
この問いを自分自身に投げかけてきた一年だった気がするんです」
安部さんは、「今まで怖くてまともにはなせなかった監督」が
『千年の愉楽』の打ち上げの前に、こっそり牡蠣とビールを堪能しご機嫌で帰って来て
いきなり「お前、飲み会好きか?」と聞いてきた時のエピソードを語った。
「好きですって答えたら、そうか。お前に足りないのは人間観察だ。
こうやって人が飲み食いしているところをよく観察してみろ。
いろんな人間がいるんだよ、それを観察する事だ、と言われまして…」
監督は人を観察するのが好きだった。
電車にずっと乗っていても、人をあれこれ観察していると
ちっとも飽きないのだ、と言っていた。
だから、若松プロに居る時は、いつも緊張するのだった。
一挙手一投足、じーっと観察する監督が、いつも事務所の真ん中に座っていた。
片山さんが、最後にまとめた。
「『海燕』を、私の地元の福岡で上映するために監督が手を尽くしてくださって
私の家族を招いて挨拶してくださった。
その時に、『人はね、人を愛するべきなんだよ』と。
そして、『どうしても許せないものとは闘うべきなんだよ。
だから、僕は原発とは闘うんだ』と言われた事を覚えてます」
「監督、恋愛ネタ好きでしたよね」と安部さんの一言コメントで
笑いの余韻を残し、トークは終了した。
毎回、毎回、その瞬間ならではの言葉が飛び出し、空気が色づく。
そんな連日トークも本日が最後である。
澄んだ秋晴れの一日に。