若松孝二の盟友で作家の船戸与一氏の小説「海燕ホテル・ブルー」。

辺境の地での個的な闘いの物語を得意とする船戸氏の異色作。人間の情念の狂気、男たちの共同幻想が、一人の女によって崩れていく様を描いた同作が、若松の映像によって全く新しい世界に生まれ変わった。


完成した作品に色濃く漂うのは、まさに60年代の若松プロが描き続けていた、荒野の中の閉塞感。


目の前に広がる黒い砂漠。海。溶岩だらけの山頂。


どこまでも広がっているのに、どこへもつながっていない風景だ。


これは果たして現実か幻想か。


交わされた約束も、心に誓った復讐も、風景の中で朽ち果てていく……。


そんな60年代を彷彿とさせる若松孝二の映像に、ジム・オルークの旋律が奥行きを生み出す。


ジム・オルークの楽曲参加は「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」以来5年ぶりだ。


若松組常連の俳優陣が揃う中、風景の中に立つ謎の女を、若松組初参加の片山瞳が体当たりで演じる。